昔の彼女の話

Twitterで『元カレに結婚式の招待をされかけた』みたいな話を見かけた。

結婚式に呼ばれて行った元カノを思い出すなどした。

 

 

宇宙でいちばん可愛い女の子だと思っていたし、今でも彼女のことを宇宙でいちばん可愛いと思う。

 

付き合ったことがあるのはその子一人ではないけれど、僕が、元カノ、と言うときは大抵彼女だ。

特別に大好きな女の子だった。

 

未練たらたらのクズみたいな書き振りだな。

(いやまぁクズは否定しないけれども、)未練があるわけじゃないんだ。

高校のクラスが一緒になって、同じ駅でも違う路線で帰るから、僕は使いもしない東西線のダイヤを覚えたりした。卒業してからの方が親密で、彼女はなんにもない田舎で大学に通う僕に会うために貴重なバイト代なんか使ったりして、優しさと気障と健気と臆病と、どう捉えたとしても僕は彼女のそう言う部分だって愛おしいと思っていた。柔らかくて滑らかで、体温は低めで、睫毛が真っ黒で、横顔を見つめていると涼やかな造形が格好良くて、口を開けて笑うと小柄なのによく響く声で、歌が上手で、僕ほどではないがなかなかの癖字で、理想家で、努力家で、僕に愛してるよって言う以外にケチのつけようがない。

めちゃくちゃ好きだったけど、めちゃくちゃ好きなだけで、酷いことをした。

めちゃくちゃ好きなまま、別れ話をした。

 

僕がどれだけ酷かったかっていうのは、彼女がどれだけ素敵な女の子だったかっていうのを分かってもらわなくても書けた。

 

だらだらと書いたのは惚気だ。フッたあとのこれが惚気に計上されるなら。

 

僕が彼女をフッたことになるのだと思う。

僕は彼女が言う大好きを信じられなくなって、僕のやり方で伝える大好きを受け取れない彼女に不満をおぼえるようになって、話して、分かれた。

 

端的に言えば、僕は彼女と性的な触れ合いをしたかった。

彼女は肉体関係抜きでも特別な感情を抱ける人間らしく、僕は恋した相手とはセックスもしたくなる生き物だった。

そりゃまあ上手くいかない。

 

ベロチューへの嫌悪感が唇の固さで分かるって、彼女と付き合って初めて知った。

知ってた?

 

今でも彼女のことを大事には思っている。

彼女もたぶん、僕のことが嫌いになったわけではないと思う。思いたい。

 

分かれてからしばらくして、彼女には彼氏ができ、のちに結婚した。

結婚式の彼女は本当に本当に綺麗で、その場の全てから愛されて見えた。穏やかそうな新郎に笑いかける横顔を見た。やっぱり睫毛が真っ黒で、陶器みたいな肌にうっすらラメをのせて、緊張しながらも幸せそうにしていた。

披露宴、友人代表は僕だった。

お色直しのための中座で、僕は彼女をエスコートした。ウエディングドレス姿の彼女が隣にいるのは非現実じみていて、今でも少しだけ疑っている。本当に可愛い女の子だった。

大好きな女の子が真っ白いドレスで階段を降りていくのを手伝って、控室に向かう前に我慢できずに抱きついた。

補正のボーンがあったのか、そもそも伸縮しない生地なのか、硬めの感触だった。

なんでそっちがそんなに泣くの、と笑いながら抱き返してくれる彼女の手ばかり柔らかかった。

 

 

そんなこと。